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2009-12-05

慧春尼(3)

慧春尼(えしゅんに)の話を続けます。

第一回目で少し触れましたが、慧春尼の逸話には、修行者の身でありながら慧春尼に言い寄った不心得な僧を撃退した話も残っています。

ある僧が、密かに慧春尼への気持ちを手紙に書き、男女の関係になりたいと伝えてきました。

普通なら、そこで叱りつけるか、そうでなくても修行者として即座に断るべきところでしょうが、慧春尼はそうはしません。

慧春尼は「簡単なことです。ただし、あなたも私も僧の身ですから、普通のところで交わるべきではありません。私に考えがありますが、その時になって難しいといって断ることはできませんよ。約束を破れば、私のところに来ることはできません」と返事をしました。

僧は「もし、私の願いを聞いてくださるのであれば、たとえ煮えたぎる湯の中であろうと、燃えさかる火の中であろうと、断ることはありません。まして、それほどでないところなら」と答えました。


きっと自分の願いが叶ったと信じ、大喜びだったでしょう。それは、この僧が慧春尼を見損なっていたということでもあるでしょう。

そして、ある時、了庵禅師が説法をする機会があり、修行者たちが集まってきました。そこへ、全裸の慧春尼が入ってきて、くだんの僧に向かい「あなたとは約束がありましたね。さあ、私に着いてきて、あなたの好きなようにしなさい」と言いました。

その僧は驚いて逃げ出し、寺を出て行方をくらましてしまったそうです。


実に見事です。以後、誰も慧春尼にそんな不心得な真似をしようなどとは考えなかったでしょうし、たぶん、風紀も引き締まったのではないでしょうか。

みんなの前で恥をかかせるというのは意地悪のように見えるかもしれませんが、私には慧春尼ほどの人が、配慮もなくこれほど思い切った手段に出るとは思えません。

考えてみれば、出家して修行をしているにもかかわらず、手紙で自分の思いを伝えてきたというのですから、一時の気の迷いというのではなく、確信犯だったのではないでしょうか。少なくとも、慧春尼が気のあるような返事をすると、ほいほいと乗ってくるような相手ですから、よほどの恥知らずだったと思われます。

慧春尼だって相手の人間性は見ているはずです。もし、言葉で諭して悔い改めるような相手であれば、無慈悲な対応などしないと思います。

よく裏では図々しく悪事を働きながら、表面上は人並み以上の善人として振る舞っている人がおり、こういう人は正面から叱ったり諭したりしても蛙の面に小便だったりするのですが、そういう人物だったのかもしれません。たとえば、普通の状態で叱りつけても、自分は知らないとしらを切るような。

手紙に書いてきたというのも、一見すると証拠を残すようではありますが、見方を変えれば、面と向かって対応するわけではないので、慧春尼の対応次第では、他人の字だとか何かの間違いだとかいって、しらを切るつもりだったという可能性もあります。

さて、私がこの慧春尼の対応で非常に感心するのは、慧春尼が不心得な僧の申し出をまったく否定していないということです。それどころか、慧春尼の言葉や行為を形の上からだけ見ると、むしろ相手よりも積極的だという形を取っています。

ここが本当にすごいところです。

柔道や合気道で投げ技が見事に決まるときというのは、相手の重心の移動の方向と自分の技の方向が一致したとき、つまり相手の動きを利用して技をかけたときですが、ちょうどそれと同じような状態です。

一般的な感覚では、何かをやめさせようとするときは、相手のやろうとしていることにストップをかけようとします。言ってみれば、何かをやめさせる=相手の動き(力)を遮ることだと思いこんでいるわけです。

しかし、それは賢明とはいえません。

相手の動き(力)を遮るというのは、力と力のぶつかり合いになります。ですから、どんなにがんばったところで力の強い方が勝つのは当然です。

最近はセクハラだのパワハラだのアカハラだのいろいろありますが、それらも体力に限らず、立場に伴う権力とか何とか、いずれにしても何らかの力を使って自分の身勝手な欲望をぶつけてくるわけです。それに対して、嫌がらせを受ける方は、力で負けるために相手の不正をただすことができず、一方的に辛い思いをしなければなりません。

その対処法として、救済機関などに相談し、時には公権力に頼るということになるわけですが、これも、より大きい力を借りるということで、力と力のぶつかり合いです。

それでうまくいけばいいでしょうが、だいたいセクハラだのパワハラだのをする連中というのはずる賢いですから、ちゃんと逃げ道を作っておいたり、裏から手を回したりして、自分の立場を守るために画策するものです。

世の中、常に正しいことが通用するとは限りませんし、そういう意味ではやはり体力・知力・権力・財力などの総合力のぶつかり合いであり、正面からぶつかる限り、力の勝るほうが勝つのはしかたのないことです。

では、力のないものは泣き寝入りをしていればいいのかというと、そんなことはありません。力がなければ、智慧を使う。「柔よく剛を制す」小さな者が大きな者を投げ飛ばすのが柔道の快感ですが、それは相手の力を利用することによって可能になります。

相手の力を利用するということは、相手のしようとすることにストップをかけないということです。むしろ、自分はうまくよけながら、相手の力が向かっている方向に自分も力をかけてやる、つまり、相手のしようとすることに協力しながら、自分の思う方向に誘導していく。

昨日の円覚寺の僧との対決でも、慧春尼は相手の攻撃を真正面から打ち返してはいません。常に相手の力を利用する形で見事に投げ飛ばしています。人生の極意もそうではないでしょうか。

あるいは、力と力のぶつかり合いというのは、力で勝る立場であったとしても効率がいいとは限りません。叱ったり、厳しく教え諭したり、あるいは体罰を加えたりしても、表面上はともかく、心の底では舌を出していたりするものです(ただし、体罰に関しては、私は否定しません。時と場合によっては、たとえ体罰を加えてでもストップをかけなければいけないときがあると思うからです)。

そういうと、今度は逆に叱らなかったり、ほめて育てよというのを誤解してまともな教育が施されなかったりという間違いを犯すわけですが、そういうことではありません。

野口整体の創始者である野口晴哉先生が子供の教育について書いていた中にあったのですが、例えば小さい子供が二階の窓から身を乗り出しているとき、たいていの親は「危ない!」といって叱りつけ、窓から引き離そうとします。しかし、それでは子供自身に危ないという認識を持たせることはできないというわけです。

では、どうしたらいいかというと、例えば子供が身を乗り出している横から、「見ていなさい」と言って、お皿を落とす。そして、お皿が割れるのを自分の目で見せて、「あなたも墜ちたら、あのお皿みたいになってしまうよ」と諭す。

まあ、そのままの方法がいいかどうかは別にして、極めて示唆的であることはまちがいありません。覚醒剤をやめさせようとするとき、どんなに口を酸っぱくして言い聞かせるよりも、覚醒剤を使って廃人になった人を見せる方が効果的だともいいます。

これらも、相手にストップをかけないという点で共通しています。ストップをかけない方が、実は効率的なのです。

そして、「莫令傷心神(わがたましいをいたましむることなかれ)」という観点からいえば、相手にストップをかけるというのは、自分にとってもストレスになります。まして、パワハラやアカハラなど、相手が圧倒的な力を持っているときには、現実的な被害も受け、心も傷つくという最悪の展開になりかねません。

ならば、相手の力を利用し、やりたい方向に進んでもらいながら、自分の思う方向に誘導する(たいていは相手に自滅してもらう)というのが賢明であり、また、「心神(わがたましい)を傷まし」めないことにもなります。

また、これは近いうちに取り上げたいと思いますが、因果応報という観点からも非常に重要な問題であり、これがわからないために善人が苦しみ、悪人が栄えるという現象も起きるわけです。

ただし、言うまでもありませんが、このような方法をとるのは相手によります。圧倒的に相手のほうが力のある場合、あるいは教え諭しても素直に受け入れない相手など、こちらの誠意が通用しない相手に限らなければなりません。

優しく教え諭す、あるいは強引に叱りつけてでも止めたほうがよいときは、そうすべきです。でなければ自分に後悔が残り、結局「心神を傷まし」めることになってしまいます。

常に、状況に応じて使い分けるということが大原則です。

それともう一点。

私が慧春尼に対して本当にすごいと思うのは、大衆の前に全裸で出て行ったということです。

まあ、みんなすごい思い切りだとは思うでしょうし、それはもちろんそうなのですが、それよりも、それだけ慧春尼自身が捨て身で対応したから、相手の僧も何も言えなくなっただろうし、周囲も心を改めたであろうと思うのです。

自分だけが安全な場所にいて、それで人の心を動かすことは不可能だということを示しているのではないでしょうか。私自身、心しておきたいことです。

心神(わがたましい)を傷ましむること莫れ。ありがとうございます。
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theme : 宗教
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